-道満晴明「よりぬき水爆さん」ワニマガジン社 ISBN:9784862691385
話◎ 抜△-× 消大 総合○
シュールでリリカルでワンダフルでスペクタクルでアイロニカルな古今東西短編寄せ集め18本+道満晴明とゆかいな仲間たちの日常おもろさうし23本。マークなし。エッジなタッチとキッチュなギャグを武器に暴れ回るこの作家がキャリア初期から早くも非凡なセンスを発揮していたことがよくわかる充実のレア・トラックスだ。
初出の明記がないのでおもに自分の記憶に頼るしかないのだが、90年代後半をメインに比較的最近まで執筆時期はワイドレンジ。しかしながらシンプルな描線のなかところどころに効果的なディフォルメをきかせたポップな絵柄は最初から唯一無二の個性を獲得していて、近作でいっそうの洗練がなされているとはいえベースラインは変わらぬテイスト。マッスの把握のたしかさや絶妙な空間の切り取り具合などはのっけから完成品で思わず嫉妬してしまいそうだ。
昨今ではすっかり雑誌のなかの箸休めポジションに安住している人だが、こちらは収録作中の少なくない数が黄色い楕円つき既刊からのキャリーオーヴァーだけあってその気になれば息子を酷使することも可能。エロ漫画にまだ実用性以外のものを期待することが許された前世紀末にあってさえ濡れ場含有率は高くない部類なのに抜群のヒロイン造形と彼女たちがときに表出させるたいそうエロティカなお顔が我がエレクチオンエンジンに火をともす。
スチャラカギャグからビターな後味を残す掌編まで千差万別の物語群に一定の傾向と呼べるものはないが、強いて言えばメカだったり魔物だったりのヒトならぬモノがなにげない日常へ違和感なく闖入しありふれた人間とほんのりハートウォームな交流をくり広げるタイプのお話がわりと多いかも知れず、また個人的にも好み。ストーリーのなかばまではむしろレイプされたり愛情なくつがったりなのにいつしか情にほだされラストにわずかばかりのぬくもりを残すトゥイステッドな展開が心地よい。
そして抜き的には対象外になるのだが本書のもうひとつの柱、作者と周囲の人物が織りなすフィクションともノンフィクションともつかぬエッセイ漫画「日なたの窓に憧れて」が初出より10年以上の時を経てもなお色あせぬ悦楽をもたらす。漫画家仲間とのたわいない日常会話やゲームネタ、無名人たちのマンウォッチングに至るまでのさまざまな事象をネタに応じ絵柄や演出を事細かに変化させつつヴィヴィッドに描き出す手腕は全盛期の桜玉吉のそれに匹敵。俺もいくつかの話についてはコマ割りから科白まで脳内で再生できるくらい当時は熱狂したものだ。
2010年度の最前線に位置するエロ漫画作品たちとちんこへのお役立ち度ではとうてい比較にならないものの、ことストーリーの鮮烈なキレといとおしささえ覚える女の子の一挙一動ではまったく見劣りしない。道満晴明の旧作の多くをいっときの経済的困窮で手放した自分にとってはこんどこそ2度と手放したくない逸品。これで収録作品の初出媒体/掲載時期の記載を索引として完備してくれればさらに数百円高くてもまったく惜しくないのだが。
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