2011-08-10

今夜のビロード革命。

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-幾夜大黒堂「性転換教室」富士美出版 ISBN:9784799500477
話○ 抜○-△ 消極小 総合○

大人になるとき自分の性別を選べる世界で性転換希望クラスに集う男子女子それぞれの葛藤と選択は……長編10話&描きおろしプロローグ/エピローグ。TSが特殊な事例ではなく日常の一光景になっているすこしふしぎワールドを緻密な設定と真摯な筆致でもって描き出す作者最新刊は通算での7th。
アニメ調の非常に愛らしいタッチで童顔むっちり系のキュートな女子がバリバリ行為にいそしむという美味しい作風の人だけど、デビュー当初の数作をレヴュウして以来しばらく縁遠くなっていて俺としてはひさしぶりの邂逅。それというのもキャリアを積むごとに題材がどんどん私的地雷方向へ先鋭化してきてついていけなくなり、申しわけなく思いつつスルーし続けてきたのだ。今回もリリースの報を耳にしたときはまったく買うつもりはなかったのだけれど、店頭見本をチェックして新鮮な感動とともにすぐさま購入を決意。
連載時は「境目のない世界」と題されていた収録作はその舞台設定ゆえ教師を除けば登場人物みなハイティーン。後日談では立派な社会人として成長している姿が出てくるものの、キャラをことさらにアダルトっぽくはしていないので見た目ほとんど一緒。まあシチュエイションがとにかく特殊なので年齢がどうとかは重要なファクターではないのだけれど。
同級生たちの群像劇として企画されたことから外観といい性格づけといいキャラメイクは比較的ばらけているのだが、なにせ性転換することが前提になるのだから彼ら彼女らを率直に抜きキャラとしてとらえていいのか非常に悩むところ。序盤で気持ちよく使わせていただいたと思ったらラストには男子になっていた!というはなはだ困った事態が招来されまくる。さらにヒロインが性別を変えないままというチョイスもあり得るのでいっそう混乱。とまあこうなることはわかりきっているのでTSはことごとく忌避していたのです。
それほどまでにこのジャンルを不得手とする自分が今回単行本を手にするに至ったのは、ひとえに質の高いストーリーテリングに魅せられたがゆえ。なかでも第2話から本格的に登場するソバカス眼鏡っ娘・嵯蔵さんをめぐる物語は秀逸で、とある事情からすっかり人間不信におちいっている彼女が徐々に心を開き最後にはとびきりの笑顔を見せてくれるまでの一連のシークエンスは本作の大きな柱といっていい。あとがきや作品解説で述べられているように彼女の存在が物語を群像劇から変容せしめる要因になったことはたしかだが、もしこれなしでカワイイ男女のキャッキャウフフに終始していたとすれば俺はこのコミックスをレジへ運ぶことは決してなかっただろう。
オハナシ上の存在感は嵯蔵さんおよび彼女とペアを組む魚住くんが突出しているのだが、それ以外にもさまざまな理由で性転換を志したキャラたちが物語を彩る。あるものは恋する相手のため、別のものは外見とのアイデンティファイを果たすため、生まれながらのジェンダーを乗り越えて自己実現をめざすのだ。彼ら彼女らをサポートする舞台装置や周辺設定もやたらと緻密で、この本1冊で世界観を使い捨てせずキャラ入れ替えで別シリーズをやってもおかしくない。
まるごと性を入れ換えるのだから座学も実践もことさら重要というわけで必然性を持ったエロシーンが展開される。授業で裸の見せ合いっこしてみたり合体実験してみたり、はたまた手術完了後の新しい身体をお試ししてみたりと機会は頻出だ。未体験ゾーンへの突入にとまどいながらも新たな性器の感触を受け入れこれまでと逆の立場で快楽を享受する彼/彼女らの痴態の初々しいこと。やがてはじめて体内で作られた熱い飛沫を注ぎこんだ彼も、それを新造の子宮で受けとめた彼女も、それぞれ性別リセット後初の絶頂に達する。
ジェンダーの揺らぎに対して滑稽なほど耐性のない自分は転換プロセスが克明に描写された一部カップルの濡れ場はどうしても実用にならず評定を下げたが、TSものがなんらハードルにならない大多数の方ならば質量ともに充実のファックで問題なく自慰表明できるはず。俺もトータル的にはたいそう楽しませてもらったので長いこと幾夜大黒堂作品を敬遠していたのを海より深く反省。ネタが自分の趣味じゃなくたってストーリーがすばらしければ万事OKですな。描きおろしパート最終ページ、紆余曲折のすえようやく幸福を手にしにっこりほほえむ嵯蔵さんを目にして俺のよどんだ心もすっかり浄化されました。

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