本日の現代文明論。

-佐伯「よわよわ」コアマガジン ISBN:9784864361286
話◎-○ 抜○-△ 消小 総合○

メシを作る先輩男子×カラダを提供する後輩女子の奇妙な関係前後編+短編8本。自分自身にコンプレックスを抱くヒロインたちが心の煩悶を恋愛の甘やかなポーションにより癒しささやかな幸福を得るまでのシークエンスを誠実に描いてゆくこの作家初単行本だ。
全収録作品の初出誌であるばんがいちは定期購読しておらずたまに見本閲覧OKの本屋でチラ見させてもらうくらいなので作者についての予備知識はほとんどなかったのだけれど、随所で評判がよろしいのは目にしていたのでずっと気になっていた人。今回初めてまともに作品を通読させてもらったが、なるほどと得心したり当初の思いこみがくつがえされたりとさまざまな発見を。
どうやら塗りを外注したらしいカヴァーはしっとりした色合いの美しい仕上がりで非常にグッドではあるものの、中身のモノクロ原稿の絵を想像するにはオーソドックスな彩色の裏表紙や帯にある漫画コマ抜粋の方が役に立つ。おそらく定期刊行エロ漫画雑誌でもっとも野郎色の薄いばんがいちのカラーを裏切らないリリカルなタッチは間違いなく少女漫画直系ではあるのだが、瞳キラキラ馬ヅラ美形てんこ盛りの男子には理解不能なそれでなく多少はオトコノコの感性にも配慮した白泉社っぽいノリであるのがボンクラオタたる俺にはありがたいところ。
この繊細な筆致で描かれるキュートなおなごどもは年のころハイティーン～20代入りたてといったところで、とりわけショートヘアさんを可愛く表現することにかけては天下一品。乳サイズも一部規格外を除きやや貧から並クラスとひかえめながら後述するキャラ造形の妙とあわせボディの盛りに頼らずとも自然なエロティックさが醸出できていると思う。
カヴァー下で著者みずから語る作品解説にあるとおり、今単行本のひとつのテーマとして各話ヒロインの持つコンプレックスがある。消えない傷跡やきょぬーコンプといった身体的なものから摂食障害だの変態性癖だのの精神的なそれまでなんぎなブツを抱えこんだ彼女たちのトラウマや劣等感はずいぶんと根深くて、そのせいで奇矯な行動に走ったりナマの感情を出すことができなかったりとなかなかに状況はヘヴィなのだ。清潔感のある絵柄や抑制された語り口によりマイルドになってはいるものの、心の葛藤やら暗闇やらをかいま見せる女の子のモノローグや表情クローズアップにぼくらのハートもチクチク痛む。
そんな壊れかけの気持ちを真摯に受けとめ包みこんでくれるのがこの作家特有の心やさしきヒーローたち。美男子でも豪傑でもないごく平凡なツラ構えの彼らはしかしながらステディな女子の揺れ動く気持ちを全力で支え力強く背中をプッシュする。ついでにちんこもゴリゴリねじこむのはまあエロ漫画なのでご愛敬だが、そんな男の子ズの誠実なアティテュードにより彼女らのかたくなな心も氷解していき、互いの肉体をむさぼるように抱きあいながらすなおな心中を吐露しモヤモヤを解き放ってようやっと安堵するのだ。各話ラスト、どうにか自分自身と向き合えるようになったヒロインたちが最後にやっと見せてくれるとびきりの笑顔がたまらなくいとおしい。
どちらかというとストーリー主導型で濡れ場分量はけっして多い方ではないけれど、前述したような感情の昇華プロセスがエロシーンのなかに自然に組みこまれているので登場人物の心情に快くダイヴインできる。ゆえにたぎる怒張を駆動し秘密の花園を濡らしてゆく一連のシークエンスが勃起中枢にたしかな刺戟をもたらすのだ。コンパクトな肢体をいとおしげにかき抱き激しく結合部に摩擦を加えるたびヴィヴィッドに反応しきつく膣内を締めあげる彼女らの痴態を存分に鑑賞しながら子宮の奥へ愛の証をたっぷり注入。
読む前は掲載誌がアレだし抜きには厳しいのではと勝手に思いこんでいたのだが、予想以上に股間に役立ち海より深く反省。とはいえ少女漫画文法に大きく寄りかかった作劇は人を選ぶと思うので、可能ならば店頭サンプル確認後の購入を推奨する。収録作のなかでは唯一の連作であり貧乳短髪痩身無感動系ヒロイン・タルホさんのけだるげな日常の言動とラストでの微デレっぷりのギャップがなんともすばらしすぎる「アシンメトリー」がマイフェイヴァリット。