-まよねーず。「肉便器システム年代記」ティーアイネット ISBN:9784887743809
話◎ 抜○ 消小 総合○
肉便器としての誇りと喜びを胸に生きてゆく少女たちの生の記録表題作長編4話&描きおろし後日談+性交ランキングの上下に一喜一憂する女子高生の日常連作2本+月にいちどの強姦訓練1本。まぐわいが白日のもと可視化されありふれた営みとして敷衍されるアナザーワールドを淡々とした筆致でつづってゆくワン&オンリーの作風が読者のコモンセンスを大いに揺さぶるこのペンネーム3rdコミックスはトータルでの4冊め。
伊豆まよね名義で刊行された前作「純愛姦情」では過半数のお話に原作がつきどちらかというと特徴のない作品集となっていたのに対し、作画/作劇ともセルフメイドの今作は誰はばかることなくまよねーず。ワールドを前面に押し出した会心の一撃だ。
いまではときに掲載誌のカヴァーイラストを担当するほどの作家だが、よく言えば落ちついた、失礼な表現をすれば華のない古典的な絵柄はデビュー当初から変化なし……というかおそらく無理に当世流行の萌え絵にする気もないと思われる。今作の表紙では特色を乗っけたり派手なコピーで飾り立て店頭で目を惹くよう工夫はしているものの、作画の魅力で客を呼ぶタイプでは間違ってもない。しかしいざページをめくれば多少タッチが稚拙だろうとそんなのはまよねーず。の価値をなんら減ずるものではないとすぐさま気づかされることだろう。
およそ50年にわたる肉便器のクロニクルを社会情勢の変化や法律の整備状況を交えつつ数世代にわたってときに力強くときに優しく描き出す冒頭長編の世界観ベースとなっているのは、過去作品においてもしばしば物語のバックボーンとして出てきた設定を一種の偽史として大成させたものだ。表題作最終エピソードのあとに配置された、些末なできごとまで小ポイントの活字でびっしりと記された年表を一目見ればその偏執狂的な熱意に圧倒されることだろう。後半部の読み切り/小連作においてもこちらほどでないにせよ綿密に作りこまれた体系に乗っかりひたすら女性の人権を蹂躙しまくる。
こうした突飛なシチュからはダークな凌辱三昧を想像しがちなのだが、実際にこのなかで展開されるのはどこにでもいる平凡な少女たちが目の前の困難を一歩一歩乗り越えてゆく、あるいは青春のひとときを恋や勉強で目いっぱい謳歌する、そんなありふれた日常のドラマなのだ。ヒロインたちが性的玩具として身体を提供するその一点を除けば、NHKの朝ドラや週刊漫画誌の看板連載として登場していてもまったくおかしくない。飛び道具に身構えず物語をじっくりかみしめれば、彼女らのヴィヴィッドな生きざまに深い感銘を抱くことだろう。
そうした日常の積み重ねにごく自然な形で全裸露出/インスタントな性欲処理ベースの性交場面がインサートされてゆく。前戯もなしに陰茎を突っこまれては遠慮なく中田氏を決めまくられ、ときにはフィストや異物挿入などのハードな行為を強いられる。正の字で放出回数をカウントされ数え切れないほど射精されてぐったり横たわる女の子の姿はしかしのっぺりした表情とあまり扇情的でない肢体描写のおかげでずいぶん陰惨さは薄れ、前向きに人生を送る彼女らの誠実なアティテュードともあいまってある種さわやかな後味さえ残すのだ。
不完全燃焼の印象をまぬがれない前単行本とは異なり、良くも悪くも完全に作者の趣味に走った今回はたとえニーズが狭まろうと彼としては本望だろう。凌辱色を押し出しすぎの表紙デザインにだまされずぜひいちどこの真摯で誠実な物語世界をみなさまにも体験してもらいたいものだ。個人的には優秀な肉便器だった母親に反発していた少女が自分もその道を歩むことで和解を果たす表題作最終話で思わず涙しちゃいましたよ。
初めて来たけど、すごいブログだぜw
返信削除まよねーず。の前の「少女型」を見たときも感じたが、やはりコモンセンスとか常識とか一般の考え方を潰すこそ異様なエロさが生み出される
>匿名様
返信削除はじめまして! コメントいただきありがとうございます。
仰るとおり、異様な舞台設定がもたらす独特の緊迫感や高揚感というものがこの作家のエロスの源泉なのだと思います。それでいて人間としての普遍的な情愛や尊厳などはなにひとつ世間のそれと変わらない、その不思議な取り合わせがおもしろいところ。