2011-07-31

今宵の社会契約。

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-霧恵マサノブ「魔法少女まじかるゆかたん」ジーウォーク ISBN:9784862973061
話◎ 抜○-△ 消小 総合○

車にはねられ意識を失ったヒロインがそこで遭遇した人語を解する不思議なカニの助けを借りて彼女をめぐる人々とのセックス遍路にいそしみ表題作長編4話&描きおろしフルカラー+幕間短編3本。センス・オヴ・ワンダーあふれる作劇とアヘ顔入り乱れるハードファックの熱核融合で話題を呼んだこの作家ひさかたぶりとなる4冊めは出版社を移籍しての初コミックス。
この作家が持てる能力をフルに発揮したスク水神様レビアたんシリーズ3部作「海神」/「海贄」/「海宴」によって一部好事家の熱烈な支持を獲得したと思っていたのに、その後いちど阿呍に漫画が載ったのち長らく紙メディアからは姿を消し心配していたところに今回の新刊リリースで歓喜雀躍。いったいどこで仕事していたのだろうと初出一覧を見ると、どうやらWEBコミックに連載を持っていた模様。ともあれ1つ前の「海宴」発刊からカウントするとじつに3年ぶりのお目見えとなりまずはGod bless you。
創作系同人あがりというキャリアも納得の他に類を見ない独特のタッチは歳月が経過してもまったく変わらない。萌え全盛の現在ではややクセが感じられるかもしれないが、まるでジェットコースターのごとく変転するストーリーとシンクロするかのごとく自在にそのありようを変容させてゆく柔軟なキャラ造形はたしかにこの物語と不可分のもの。なお著者あとがきで明かされるように褐色キャラについてはずいぶんとリキ入れて描写されているので、こんがり焼けたお肌の女子を愛好する方はぜひ一読を。
女性陣はカヴァーガールたる表題作ヒロイン・由布香のようなランドセル世代から短編「とりあたま」の出戻り元人妻まで比較的幅広いが、歳の判別ができない人外さんが大挙登場しているうえ年齢的アイコンを明確にするような描き方をしないのでキャラのお年で購入可否を判断するのには不向き。どっちみち幼かろうと年長だろうといざ濡れ場に突入すればグチャグチャに表情を崩してアヘりまくるのだからその意味じゃ大差ないですが。
もっとも重要な部分である作劇の方は、SF的ガジェットと浩瀚かつペダンティックな語り口を駆使しながらそこかしこに伏線を仕込んでいき、単行本終盤ですべての糸を織り上げて壮大なヴィジョンを見せつけるまいどおなじみ霧恵マサノブ印のそれ。レビアたん3部作のように複数巻にまたがった遠大な仕掛けこそないものの、余人にはマネのできない異様に目の詰んだ情報の奔流をきっちり制御して強引にラストへつなげてみせる剛腕はさすがのひと言。ただ可能ならば3部作を事前に読んでおいた方が話の飲みこみも早く、またちょっとしたお遊びにも気づくことができてより美味しいのでこの際ぜひ既刊もレジへ。
物語の枝葉に立ち入るとただちにネタバレへとつながりかねないのでこの項でそれを詳細に述べることはしないが、オハナシの発端からドカドカと謎アイテムを投入していき「こりゃいったいどこへ行こうとしてるんだ?」と読者を混乱させつつ、中盤まではエロいけどなんだかわからん状態が継続する。唐突に挿入された読み切り3本の存在も脳裡にクエスチョンマークを量産するだけになるかもしれない。しかしながらその当惑は最終第4話に入るとともにみごとに氷解していくことになるだろう。すべての事象は終着点に向けての必然であり、ストーリーの配列もまたその一環にほかならないののだと気づくはずだ。ことここに至っての得も言われぬカタルシスはこの作家最大の美点であり、いち漫画読みとしての幸福を覚える瞬間でもある。
これら重厚な物語パートと対をなすのが漫画表現的飛び道具をこれでもかと過剰投与するド迫力のエロシーン。泥人形めいたプリミティヴな体躯をガッシリと持ち上げて性器どうしを密着させればたちどころに豊穣な性宴のはじまりだ。無限に弾薬を供給される自動小銃のように絶え間ない嬌声と擬音とをまき散らしながら、彼ら/彼女ら/どちらでもありどちらでもない者らがあらゆる種類の液汁を分泌し瞳孔を見開いて肉体の快楽へと意識を集中させる。互いの口腔から発せられる音声はまったく意味を失い、涙とヨダレと鼻水にまみれ愉悦にひたる表情はもはや1個の動物だ。痛みや憎しみや妬みやそういったネガティヴな感情もセックスの歓びの前にはすべて開放される。やがて誰しもが熱い飛沫を放ち/放たれて絶頂を迎え、それは幾度となくくり返されて止むこともない。
ヴォリューム満点のエロがおもしろすぎるお話運びのせいで脳みそからはじき出されがちではあるものの、個人的にキャラメイクが好みだったこともあってか従来作よりはちんこの活用へリソースを割り振ることができた。ショタホモ(一部)やふたなりなど苦手科目がありいくらか評定を落としたが抜きツールとしても及第点といえよう。とはいえ本領はやはりお話の圧倒的なスケールであり、ラス前あたりから脳内でパズルがどんどん解けてゆくその快感。彼の作品を詳細評価するには本当ならこうしたブログなどよりは論文形式でそれをした方が適しているとも思うのだが(大学生/院生の方とか、題材にどうですか?)、この稀代のストーリーテラーの健在ぶりを確認できまずは重畳。

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