-まよねーず。「便器街」ティーアイネット ISBN:9784887744240
話◎ 抜○-△ 消小 総合○
男女とも生殖力が急速に低下しつつある近未来、出産能力のある女子は国の施策で一律隔離され道行く男どもにナマ出しレイプされ放題中編3話+学園アイドルを決めるのは君の清き一発短編+国家の施設で処女喪失すれば晴れて成人認定短編+お見合いパーティという名の乱交イヴェント短編+売春免許取得を目指し女の子たちはがんばる!描きおろし短編。さまざまな形で人権を蹂躙される少女たちの物語を淡々としかし克明に描き出すこの作家最新刊は当名義での4冊めにして通算の5th。
誰にもマネのできない特異なアナザーワールドをデビューから一貫してものしているこの人がその作品世界を壮大なクロニクルとしてつづった前作「肉便器システム年代記」から1年あまり、またしても奇想の泉は枯れることを知らずこんこんと異形の物語を我々の前に現出せしめる。こう来るのはわかっているからページを手繰る前はいつも身がまえてしまうのだけれど、ひとたび覚悟を決め表紙を開けばたちまちまよねーず。マジックに目を奪われ一気にラストまで読破。
例によって表紙はこの作家の本質とはどこかズレていると思わざるを得ないビッチアピール風のそれだし、率直に言って流行りのスタイルからは遠いのっぺりとした筆致で描かれるヒロインたちは萌え? なにそれな趣。てなわけでセクシーダイナマイツ大好きっ漢にもほわほわラヴコメスキーにもおそらく当書の第一印象はかんばしくないものと思われるのだけれど、勇気を出してハードルを越えた瞬間に貴方は新しい知覚の扉を開くことになるだろう。
今作のメインコンテンツである唯一の連続もの「楽園シティへようこそ」のように街ひとつまるごとの設定を精密に作りこんだ大作があれば後半の短編群みたくワン・アイディアを転がせてゆく掌編もありとスタイルに差異はあるけれど、すべての物語に共通しているのは女性を性欲処理の道具として蛮用することが当然視されている世界であること。ありふれた現代日本の一光景のようでいながら道徳規範のことごとくが反対のヴェクトルを向いているさまは壮観だ。
そうした社会であるから女の子の肉体の扱いはずいぶん粗雑で、道ばたを歩いていても放課後の教室でも彼女たちは容赦なく衣服を脱がされ前戯もそこそこに乾いたままのヴァギナへたぎる怒張を無理やりねじこまれる。好き勝手に腰を使われよがるヒマもなく精を放たれるのならまだいい方で、男の虫の居所が悪ければ態度が悪いと殴られたり巨大な性具を強引に押しこまれたり、はなはだしきはまんこがゆるいからと首を絞められ文字どおり昇天しそうになる始末。虐待に泡を吹き強要に涙して事後は陰部から精液やら血やらをたれ流しつつグッタリと横たわるヒロインたちの姿が哀愁を誘う。
この凄惨な光景を前に作者が訴えたいのは暴力をほしいままにするほの昏い喜びでも、あるいは逆にディストピア描写を通じた義憤の発露のいずれでもない。この奇妙奇天烈な空想世界を、しかしぼくらリアルな生活者がふだんそうしているのと同様に、まよねーず。ワールドの住人がその世界を至極あたりまえの日常として生きてゆくさまを描いてゆくことにこそ主眼が置かれているのだ。彼女らにも友だちとの楽しくときに真剣な語らいがあり先輩や後輩との交流があり、そのなかで笑ったり泣いたりの営為がひたすら続いてゆく。そうした平凡な日々のなかのちょっとしたワンダーをさりげなく読み手の目前に抽出してみせることこそがこの作家の本領なのだと思う。
ある意味でセックスのみを前面に押し出した舞台設計になっているのでむろん裸体は飽き飽きするほど出てくるしエロシーン密度は異様ともいっていいほど高いのだけれど、これまで述べてきたように強姦輪姦フルコースの凌辱エロとは似ているようでまったくの別もの。読後印象に残るのは荒涼としたファックよりも透徹した街の空気や少女らのささやかな喜びや悲しみの方だ。一般的には弱点になりかねないキャラたちの能面のごとく硬い表情も、カメラ・アイに徹した静謐な語り口にはよく合致していてお話を効果的にドライヴする。グロテスクな設定をあくまでフラットに描写してゆくさまはまるでマーガレット・アトウッドの小説みたくたいそうクール。
今作を総合的に見ると物語方面ではやはり長尺シリーズ「楽園シティでようこそ」が一頭群を抜いていたし、抜き的にも一部社会人もので評価をわずかにマイナスしたものの前作同様気持ちよく使わせてもらった。今後もこの作家にはワン・アンド・オンリーの作品世界構築を可能な限り継続していってもらいたいもの。
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