-家内制自転車操業。「淫愛サイズ」富士美出版 ISBN:9784799501382
話○ 抜○-△ 消極小 総合○
人形サイズに身体を縮められ弟や妹にいたぶりつつ愛でられてヒロインはおのれの内なる性癖に気づき本編(前作収録作続編)&描きおろし番外編+ナノマシンを仕込まれて生身では味わえない快感に耽溺連作2本+独立短編4本。長い長い雌伏の時を経て超一流の変態漫画家へめでたく変貌をとげた作者2冊めのコミックスだ。
この人の処女単行本「粘膜交慰」が世に出たのはじつに7年前、2005年のこと。それ以来執筆ペースは極端に落ちて、このところは毎年その存在を完全に忘れ去ったころに突然作品を発表してはまた身を潜めるという不思議なサイクルができあがっている。これだけ悠長な執筆ペースから推測するにおそらく本業はべつに持っていてエロ漫画は身過ぎ世過ぎの手段でない純粋な趣味の成果発表のようなものなのだろう。そうであればこのあと言及するような極限まで先鋭化した作品内容にも納得がいく。
ちょっと太めの描線でものされるオーソドックスなアニメ調の絵柄はもはや新しくなどないものの、非常に安定した筆致とディジタルツールによる洗練された画面処理のおかげで充分に鮮度を保てているのが強み。前述のとおり執筆時期のレンジは非常に幅広いのだけれど絵柄のブレはさほどないのもありがたいところだ。タッチに尖った部分がないおかげで表紙もパッと見標準的な成年単行本のごとくで受容のハードルも高くない。まあ帯やら構図やらでけっこうネタバレしちゃってるのは親切というかある意味残念ではあるけれど。
前作より若干女性陣の年齢レンジが狭くなり、また造形も長髪巨乳系でほぼ統一。ただ今作に関してはそんな一般的な要素などはほぼどうでもよくて、ヒロインたちの極端な体格差とエキセントリックな嗜虐/被虐嗜好が強烈にきわ立つ。デカい方の人は80年代番長漫画みたく一般人と同一フレームに収まらない特大サイズだし、ちびっ娘の方は逆にふつうの人間が指先でつまんじゃえそうな短躯。そしてすべての女の子は筋金入りのドSかナチュラル・ボーン・ドMかのオルタナティヴでまっとうな性癖の娘は誰ひとりおりません。
そんな彼女らが乗っかるストーリーもまた変態性を前面に押し出したものばかり。巨大娘に踏みつけられたりまんこに全身飲みこまれたり、はたまた薬や道具で無理やり快感を引き出し白目むいて絶頂したりのアブノーマル大全。なかでもビッグサイズ女子×ミニマム男子のモティーフはしつこいほどに反復されていて、体躯も力も圧倒的なヒロインに存在そのものの矮小さを嘲笑され虫けらのようにもてあそばれる凄惨な光景はまるでディストピア/ユートピア。前作でもこうした要素は小出しにされてはいたけれど決して主流派ではなかったので、初単行本後の雑誌掲載作品を読まずいきなりコミックスから入った人は仰天必至。
エロシーンにおいても以前は緻密な性器断面描写をフィーチャーしていたのだが、もはやそっちは脇役でもっぱら体格差を活かした変態プレイの大展覧会と化している。巨大なストッキングの編み目で全身をつぶされながら足指の臭いに埋もれて失神するだの巨大まんこに頭から足まで包まれて粘膜に締めつけられるだののガリバーティックな性戯の応酬に頭クラクラ。ときおり出てくるビザール拘束やら器具挿入やらいわゆる通常のSMプレイがあたかも子供の砂遊びに見えてくる始末だ。これらビックリ人間大集合的行為に興奮するかドン引きするかはこれを目にした君の自由だ。
この作家に関する情報収集を適宜行っていた自分は新作発表のたびにノリがイカレてくるのを知っていたからこの単行本を読破したときも驚きはもうなかったけれど、それでも改めてまとめ読みするとお腹いっぱい。多少ちんこまんこ描写がすごいだけの漫画家からワン・アンド・オンリーの変態作家へみごとに化けたこの1冊、たぶん訴求対象は極限まで狭まってしまったと思うが奇抜なエロ漫画を読んでみたい貴方には自信をもって今作をお勧めする。前人未到の肉便器ワールドを構築したまよねーず。や異様なまでの構成力ですこしふしぎサーガをくり広げる霧恵マサノブのごとく作者名それ自体がひとつのジャンルと認知される日もそう遠いことではないはず。
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