-白石なぎさ「肉襞のキオク」一水社 ISBN:9784864161701
話◎◎-◎ 抜○ 消小 総合○
幼なじみどうしのふたりの恋は陰惨な村の因習によって踏みにじられ本編&スピンオフ前日談+独立短編8本。愛と性の隘路に迷いこむ男と女の歓びと苦悩のどちらもひとつずつ誠実につむいでゆく作者最新コミックスは通算6冊めにして当社からの第5弾となる。
去年8月にエンジェル出版より発売の前単行本「牝犬カタログ 調教淫婦」から再び古巣である一水社からリリースされたこちらは、当レーベルの物件としては2年前に刊行の「濡れた果実」以来のもの。前作は舞台を代えたこともありいささか中身の趣向も異なったものになっていたけれど、こちらはデビュー以来おなじみの白石なぎさ節が炸裂だ。
昨今のエロ漫画界ではめずらしく、萌え的なアトモスフィアをほとんど感じない昭和テイストの絵柄が特徴的。以前は相当年齢のいっている人が手がけているのかと思っていたが、単行本のあとがきや作者ブログの記述から実際には三十路迎えたて程度と判明しビックリしたものだ。とはいえ今回1本だけ載っている超初期作品を見るとそちらはやや稚拙ながらカワイイ系のアニメ絵なので、現在の重々しいタッチは作風にマッチさせるべく意図して改造をほどこしてきたのだとわかる。
前述の商業デビュー作(巻末著者あとがきにいわく、戒めで載せたのだそうな)を除いて、こちらに収録されているのは2011-12年に執筆の新しい作品ばかり。よってカヴァーイラストだけを見てジャケ買いでもほとんどハズレはないと思うが、ヒロインの年齢層がハイティーン~推定40代とずいぶんバラけているのでそのへんは注意だ。俺はこの人の描くちょっとヤボったい女子高生が大好きなのだけれど最近の絵柄だと若干老けて見えるのが気になるところ。
そんな彼女らが乗っかる物語こそは白石なぎさを他の誰とも違う存在たらしめているワン・アンド・オンリーの世界。和姦だの凌辱だのカテゴライズするそれ以前に、この人の作品はいずれも舞台設定に重く救いのない背景をぶちこむのが特色だ。絶望的な格差や逃れられない因果、重苦しい家庭不和に社会との断絶など、ありとあらゆるネガティヴ・ファクターがこれでもかと散りばめられる作劇は前向きに締めくくられる話ですらなにやら不穏な空気をただよわせてしまう。こういった現代日本のダークサイドをつらつら描かせると抜群で、一抹の不快感を覚えつつついつい彼ら彼女らの運命の行く末が知りたくて急ぎページを手繰るのだ。
今回はそんなどす黒い白石なぎさワールドのなかでもとびきりの凄玉が収録されていている。今回唯一の連作もの「渡られざる橋」/「還らざる河」がそれで、一寒村に残る差別と抑圧のどうしようもない現実を嘲笑するでも告発するでもなく冷徹にスケッチ。女性が代々慰みものになるという部分は彼の創作だろうが、村落のなかの一角だけが隔絶されていたり、その向こうの住人が謂われなき蔑視を受けていたり、それはまさに中上健次言うところの「路地」の風景そのものだ。まさか2013年のいまにもなっていにしえよりの差別の闇をえぐる作品にお目にかかれるとは。そこで描かれる醜悪きわまりない情景に打ちのめされたのちの「渡られざる橋」最終ページ、夜逃げを提案する主人公とそれによる恐るべき報復について口にするヒロイン、2人の選ぶ道について前途を示さぬまま提示されるラストシーンに浮かぶ月のなんと美しくも残酷な輝きよ。
人間存在のやるせない深淵を描きつつもエロシーンはおろそかにせず、むしろ心の闇それ自体を男女の情欲の炎の燃料として大いに利用するのが21世紀の実用オリエンテッドなエロ漫画界に生きる作者ならではの巧みな技。華やかさこそないがどっしりと地母神のように豊満な肉体を誇示するヒロインたちが欲望のおもむくままに身体を開き性器を酷使するさまがなんともいやらしい。
わずかの逢瀬にせわしなく唇を重ね互いの着衣を下ろしながらきつく抱きあう。たわわな胸に顔をうずめながら生い茂る下腹部へシャフトを一気に挿入だ。粘膜どうしをハードに打ちつけあうたびほおを紅潮させ歯を食いしばりながらこみ上げる快感に耐える彼女の媚態が勃起中枢をハードヒット。汗と涙と唾液にまみれながらしきりに膣内射精を懇願するヒロインの子袋めがけてとびきり濃い子胤をいつ終わるともなく注ぎこみ続ける。
問答無用の凌辱ネタのみならずラヴラヴ和姦ですらどこか先行き不安にさせてしまう物語ばかりなので、エロ漫画に癒しの機能を期待する読者には徹底的に向かない。この作風を貫徹している限りはたとえばオタショップで天井まで平積みされるような単行本を生み出すことはおそらくないだろう(作者さますいません)。でもだからこそ、この居心地悪くひねくれた漫画ばかりを生み出すこの作家が次にどんな爆弾を落とすのか目が離せなくなるのだ。超売れっ子にはならなくともせめて彼が後顧の憂いなく執筆に没頭できる程度には買い支えていきたいと本作を読み改めて感じた次第。俺的には前述の「渡られざる橋」/「還らざる河」連作はむろん別格として、ずっと日陰者扱いされていたヒロインが幸せをつかむというこの作家の漫画にしては比較的救いのある「真夜中のフィアンセ」と、逆に徹底的に不快なオチをつけた兄妹近親もの「イケナイコト」も印象的だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿