2019-03-05

本日のバウムクーヘン。

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-秋葉凪人「お姉ちゃんは痴女」海王社 ISBN:9784796412568
話○ 抜△ 消小 総合○

独占欲むき出しの姉に弟はオモチャにされ表題作本編&続編+ゆがんだ愛憎を向けてくる少女たちオムニバスシリーズ3本+独立短編5本。リリカルな愛の交歓をしかしながら狂おしい性癖を露呈しつつ展開する奇妙にねじくれたラヴ・アフェアを巧みなお話運びでお届けの作者最新刊はじつに8年ぶりとなる本名義での通算2冊めにして再録を除いた前PNからトータルでの6th、マークつき物件としての5冊めだ。
この作家をはじめてそれと認知したのははるか大昔、この人がまだ当初のペンネーム「秋葉凪樹」でデビューしてまもなくの「コミックジオトピア」だったと記憶している。当時からきわ立ったストーリーテリングで抜群の存在感だったがいかんせん寡作で、これだけ長大なキャリアを誇るのに世に送り出されたコミックスは両手に余るほどしかない。しかも今世紀に入り筆名を現行のそれへ変更してからはさらに露出が減り、茜新社より2011年に上梓された前作「パンダかめんの最期」発売ののちほどなくして商業誌ではお目にかかれなくなってしまった。だもんでもう2度と単行本は刊行されていないと思いこんでいたところ突然の新刊リリースの報でビックリですよ。ともあれ我が青春とともに在った作家との再会を楽しみに書店へダッシュ。
多少なりとも秋葉凪人という作家の漫画に接してきた人なら今回の表紙に驚くはずだ。というのもいわゆる抜き漫画の世界では異色な、ほんのりダーク風味の叙情派エロスをウリにしてきただけにカヴァーデザインも従来はわりとオサレ路線だったのですよ。それがまるでふつうのエロ漫画単行本みたいなカヴァーでなにも知らない人が間違って購入したらどうするんだと詰問したくなりますね。ともあれさっそく収録作の初出を確認すると……残念ながら記載がどこにもない。しかしながら親切なことに有志の方がWikipediaでおおよそのリストを挙げてくれていて、それと照合するにかつて本拠としていた「COMIC RiN」(茜新社刊)掲載分を中心に他媒体のものも数本集めてきた模様。最古のものだと20年以上前からのロングスパンだけに絵柄の新旧差は激しいけれど、太めの描線でつむがれるキュートな作画の基本線はずっと変わらない秋葉凪人独自の味わいだ。なお出版社提供の単行本情報ページは書誌データのみだが、作者サイトの発売告知その他で画像をいろいろ見られるので、購入前にそちらをチェックしておけばある程度雰囲気がつかめるかと。
ザックリした線なのにシルエットはやたらと丸っこく描かれるヒロインたちは年のころハイティーン~20代前半附近と推定される。10代女子はむろんのこと大人女性でさえむやみに童顔なので熟女スキーには不向きだが、そんな童女のごとき彼女らの内面はむしろ大多数が老成しきっていて世をはかなんですらいるのだからおもしろい。そのまろやかなラインから想定されるとおり肢体描写はグラマラス系主体なのだけれど、とにかくほとんど服を着たままで露出もかなり少なめなので裸体命の方は回れ右推奨。
デビュー以来一貫して秋葉凪人のストロングポイントはその唯一無二のお話運び。徹底的にタームを吟味しよけいなものをそぎ落としたリーンな科白まわしでいながら幾重にも意味を重ねたリッチな物語をくり広げるさまはまさにことばの魔術師だ。中長編メインの過去作品に比べ仕掛けの巧妙さでは一歩を譲るが、いつもながらにただようほの暗いアトモスフィアは不変。お話の多くが最終的なカタストロフを示唆しながら締めくくられる一種の悲劇を得意とする人であり、本作収録の物件たちの多くも男女のやるせない心のすれ違いとそれによる取り返しの付かないバッドエンドが突きつけられる。とはいえ、かくも殺伐とした世界のなかにわずかに落としこまれるハッピーな恋人たちのなんでもない日常の話がある種の救いとして機能し読後感を中和してくれるのだからやはりこの人はあなどれない。
この作家のものする濡れ場は抜き物件としてはかなり異色で、まず前述したように女の子たちはろくにお肌を見せず大多数が下着も脱がない着衣Hが主体となる。そしてノーマルな交合はほとんどなく、大半はドMな男子を嗜虐心豊かなヒロインがいたぶりまくる女性上位の構図だ。加えてそのありようも体臭についてのフェティシズムをあらわにしたり顔面騎乗だの超体格差プレイだので完全に野郎どもを服従させたりのエグい行為が目白押し。オーソドックスなエロ漫画を期待して読むとそのあまりの逸脱ぶりに驚愕すること必定だけども、この特殊性癖がジャストフィットする好事家にはたまらぬご褒美かと。
いきなり体躯を押しつけドカッと男子の顔へマウンティングして思春期の身体の匂いをかがせる少女は最初から変態フルスロットル。執拗に言葉責めされグイグイ体重をかけられながらもその屈辱にいっそう興奮する男子諸君も救いようのないドマゾくんだ。みっともなく勃起したちんこに下着を巻きつけられ布地で刺戟されてだらしなく果てる少年になおも股間を擦りつけるヒロインの狂気は止むことなし。
性的嗜好がイヤになるほど超保守的な自分は正直股間を活用するのは厳しかったけれども、おそろしく磨き抜かれたダイアローグの妙とそこからつむがれる刹那的な愛の物語をひさしぶりに大量摂取しご満悦。巻末著者あとがきでこののち商業誌で仕事する可能性はほぼないと断言しているだけにこれが最後のコミックスになりそうではあるのだけど、やはりこの傑出した才能に触れることができなくなるのは悲しいので、おせっかいだとは思うけどなんらかの形で創作活動は続けてもらえればと願うばかり。わたくしヤワなボウヤなのでこの人の本領であるガチダーク系よりは少数派のほのぼのエロスの方が好みで、とりわけRiN初出時からおもしろく読んだ、ホンワカしつつも隠微な背景を感じさせる2人の小さな愛の物語「しあわせな 花子さん」が収録作中の私的ベスト。

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