-美波リン「熱愛・生徒会!」実業之日本社 ISBN:9784408173320
話○ 抜×-△ 消大 総合△
幼なじみどうし惹かれ合う2人だけどその親たちは犬猿の仲だし肝腎な場面でじゃまは入るしで恋は前途多難表題作長編10話+描きおろしおまけ。マークなし。青春真っ盛り男子女子のきらめくラヴ・アフェアをときにコミカルにときに真摯に描き出す作者この名義での処女単行本だ。
これまでとくに一般誌や同人等でも知られていなかった作家にもかかわらずいきなりずいぶん達者な作画/作劇だなあと中身を見れば、著者あとがきの記述にいっぱしのエロ漫画フリークを自負する貴方は衝撃を覚えるかもしれない。すなわちこの御仁、ともに豊富なキャリアを誇る2人――すずきみら/大波耀子の合同ペンネームなのだ。複数の人間で1つの漫画を作ること自体はもうめずらしくもなんともないことだが(さらに公表してないだけでじつはユニットで作業してる漫画家も多数いる)、すでに一本立ちしている作家どうしで合作の事実を明らかにするのはレアケースといえるだろう。俺自身はじつのところ事前にこの情報を知っていたのでそれほどビックリはしなかったけど、実際にできあがった作品を目にするのはこれが初。
作業の分担はネーム~下書きまでがすずきみら、ペン入れ以降の作業が大波耀子ということで、どちらかというと主導権を握っているのは前者の方。カヴァーにしても本編にしてもすずきみらテイストが明らかにきわ立っていて、大波耀子らしさを感じるのはエロシーンに突入してからのボディ描写や表情くらい。個人的にはどちらの作家も美味しくいただける人間なのでとくに不満はないけれど、大波カラーてんこ盛りを期待してページをめくると少々拍子抜けかも。
物語の方はタイトルどおり高校生徒会を舞台にした惚れたハレたの青春ラヴコメ……といいつつ、メイン格の3人&後ほどかかわってくる男子1人以外に役員の姿はどこにもなく、この設定は単にキャラたちを常時近距離に置いておけるから採用されたとおぼしい。この舞台設定のなか主人公と隣家の幼なじみ女子とが恋の進展に一喜一憂するのだが、もうひとりの幼なじみ巨乳っ娘をおじゃま虫的に配していい雰囲気になったところに水を差すという少女漫画ティックな展開がじつにむずがゆくも甘酸っぱく。そのうえロミオとジュリエットばりの実家どうしの対立までストーリーに織りこんで、まるで80年代大映ドラマか韓流ソープオペラかというベタベタぶりだ。とはいえそこで暑苦しくリキ入れるのではなくサラッと流して極々さわやかにお話を進行させるのがすずきみらならではの職人芸。
中盤まではいかにも高校生らしく心のすれ違いだの青春の蹉跌だのがメインで描かれるので、実際にメイク・ラヴするのはかなり後になってから。そのぶん濡れ場含有率は低くならざるを得ず、この2人の作家の甘美なセックス描写を堪能させてもらっていた身にはいささか欲求不満。そうはいってもぎこちなく契りを交わす主人公カップル初体験の模様だとか、サブヒロインがハートブレイクをなぐさめてもらうくだり(とくに「名前を呼んでほしかったから……」の部分は秀逸)にはグッときましたですよ。慎太郎シール誌準拠の真っ白修整は残念だけれど、大人設定にすると繊細な恋愛譚がだいなしになりかねないところをきっちりJKにこだわった作家魂には率直に乾杯。
抜き物件としてはかなりパンチが弱く、精液分泌至上主義の当ブログではいささか厳しめの採点にしてしまったが(作者さますいません)、思春期後期特有のまぶしいくらいヴィヴィッドな恋愛を甘美さもほろ苦さも交えつつラストで気持ちよく締める手腕はさすが。夏の青空のごとき爽快な読後感を誰しも楽しめるすぐれた追憶ツールだ。まあ帯のアホみたいなあおり文句はこの快い青春譚に対しミスマッチすぎるんで編集者はもう少しいい仕事をしてほしかったところですが。ともあれこの名義での執筆活動はまだ継続しているようなので、意欲的な新作リリースを今後も期待。
-黒河澪「やりすぎな彼女」双葉社 ISBN:9784575839388
話△ 抜△ 消大 総合△
ヴァレンタイン・チョコが縁で同僚男女めでたくカップル成立正続編+引っ越ししたての若夫婦がお風呂でイチャイチャ本編&おまけ+短編8本。マークなし。リア充たちのライトでスウィートなコンビニエロスを安定供給のこの作家2011年初単行本だ。
昨今はすっかりガチ成年誌から遠ざかっている人で、実際今回も去年刊行の前作「水野姉妹物語」同様に慎太郎シール誌連載をまとめたもの。ただし話数表示は付属していても一部の連作を除き内容的な連関はなく、要するに読み切りをコミックス1冊ぶんずらりと並べたものと思えばいい。強いていえば作品初出時の季節に合わせたアイテム(夏なら水着、年末はクリスマス、2・3月はヴァレンタイン/ホワイトデイネタetc.)を明示的に散りばめているのが共通点か。
よそのコンビニ売り誌ではお目こぼしに中高生の登場が許されることはあるが、こちらは業界一レイティングに厳しいピザッツ掲載作品とあってヒロインはみなOLや主婦などのアダルト専科。ことさらに熟女っぽい造形をする人ではないのでむやみに老けた感じはしないけれど、JKやらロリものやらを描いていたころを知っている俺はそっちの方が絵柄が生きるのに……と少々残念な気分。
お話もまたライトエロの模範たる1on1のイチャラヴ専科。すでに関係が成立しているか憎からず思う2人がサクッとくっつくかなので切った張ったの泥沼恋愛模様には無縁だ。男女ともイケメンさんばかりで醜悪なヴィジュアルは鄭重に排除され、このままTLに転身しても充分やっていけそうなオサレっぷりに典型的オタ野郎たる自分はいささか気後れもするのだが、男子の感性まっしぐらなアニメ絵かひと世代前の劇画調が跋扈する双葉社雑誌群にあっては独特のポジションを確保できていてよろしいかと。
世紀周辺を真っ白に処理するいつもの無慈悲な修整により濡れ場の迫力はだいぶ減退するものの、巨乳さん揃いのヒロインズをベッドに横たえて伯ぱぁと下腹部を開き如陰謀をインサートのスムーズなエロ突入で細工は粒々。端整なフェイスを真っ赤に染めて小刻みに嬌声を発する彼女らのえっちな内奥めがけたっぷり種つけだ。
とまあ大ヴェテランらしいウェルメイドな単行本ではあるけれど、完全に作風が固まってしまっていまいち新味が感じられないのも事実。本来はいろいろどす黒かったり過激だったりする部分もある作家なのだがそこらへんを隠蔽しているコンビニ仕事は正直もの足りなさを感じるのだ。次回作はそういったダークマターをどこかで開放したのを読んでみたいなあ。
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